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夏の終わりを感じさせる乾いた風が、路地の合間を吹き抜けていく。
空を見上げると、平たく伸びた雲を背景にして、過ぎ行く夏を惜しむかのようにセミが鳴き続けていた。
村の外れへと向かう途中、真っ黒に日焼けした或麻が背伸びしながら言う。
「あーあ、夏休みもあっという間に終わっちゃったし。そう思うと、高校生活なんて短いものよね」
「それだけ遊び呆けてたら充分でしょうに。そもそもあんた、何年間高校生やってるのさ」
「んー、何のこと?」
首を傾げてとぼける或麻に、私は眼鏡のフレームを押し上げつつ溜息を返す。
あの日から、二ヶ月が過ぎた。
火事で焼け落ちてしまった乾の実家跡は広場になり、その片隅には管狐を奉る小さな木造の祠が建てられていた。
広場へと近付くと、入口から古明地杜人が出てくる姿が見えた。かすり傷で済んだ彼はすぐに病院から退院したが、衛藤由宇の方は精神的なショックもあってまだ入院したままだという。
学校へと向かう彼の後ろ姿を見つめていると、或麻が意味ありげな表情を浮かべる。
「話し掛けないの? 仲良くなるチャンスなのに」
私は首を横に振ると、そのまま広場へと入った。
広場の隅の小祠には、供えられたばかりの線香とともに、橙色の実をつけた鬼灯の枝が竹筒に挿してあった。おそらく古明地杜人が供えたのだろう。
しゃがみこんで祠に手を合わせながら、私はぽつりと呟く。
「きっと彼は、彼女の……衛藤由宇のことを、ずっと待ち続けるんでしょうね」
「まあ、多分ね。意外と古明地くんって頑固そうだし。管主の血ってやつ?」
鬼灯の実を指先で突きながら茶化す或麻に、私は言う。
「でも管狐の祟りなんて人間が言ってるだけで、当の管狐からしてみればハタ迷惑な話なのかもしれないわね」
「さんざ食い散らかしといて、よく言うわね、あんた」
「……」
私は素知らぬ顔で立ち上がると、踵を返して歩き出す。
「ま、どちらにしても私は怪異なんて信じてないけどね。あれは全て幻、いわゆる幻妖ってやつよ」
「この期に及んで、まだ言うか」
苦笑いしつつ、或麻も後に続く。
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