エピソード5《最終章》 紅咒楼

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エピソード5《最終章》 紅咒楼

「鉢須ん家がえらい目におうとるのに、暢気に祭り見物かいな。管師ん分家は人の気もしれんのか」  人混みを掻き分けて私と或麻が駆けつけた時には、神指神社の周辺はすでに騒然としていた。 「寛治、やめとけや。まだ高校生じゃろ。ガキ相手に突っかかんな」 「ガキかてこの神指で言うてええことくらい分かっとるじゃろ。管師ならもっとそうじゃ」  語気を荒げる作業服姿の男を、連れの二人が押し留める。若衆と呼ばれる三十代くらいの男たちと向き合っていたのは、やはり古明地杜人と衛藤由宇だった。 「ちょっと、何ですか。俺たちが何かしたんですか」 「なんじゃお前。小僧は退()いとけ。俺あ、そこの衛藤ん家の娘に話があるんじゃ」  酒臭い男が、威圧的に古明地杜人を睨みつける。その間も、衛藤由宇は気味の悪い笑みを浮かべたまま挑発的な視線で男を見つめていた。 「なんじゃその目は。管狐の力を嵩にかけて祟りやと、戯言いうのもたいがいにせいよ」 「ちょ、ちょっと、やめてください」  詰め寄る男に後ずさる古明地杜人の脇をすり抜け、衛藤由宇が全く物怖じする様子もなく男の前に歩み出る。 「由宇、危ないから下がって……」  彼が止めようとした瞬間、衛藤由宇はニイっと口角を上げる、それは鉢須茜に祟りの言葉をかけた時と同じ、悪意に満ちた表情だった。 「神指の人が、管狐の悪口言うんだぁ。そっかぁ」 「ああん? 小娘が何言うとる」 「だめぇ。もう憑いてる。その首に三匹、白い管狐が纏わりついてるよぉ」 「てめえ!」  男が衛藤由宇の肩に手を掛けようとした時、突然ぐっというくぐもった声とともに、男が崩れるように膝をつく。 「か、寛治! どうしたっ!?」  若衆たちが駆け寄る中、男は苦しそうに喉を押さえてもがき始める。 「く、くくくくく。ほらぁ、言った通りになった。管主に逆らおうなんてするから、どんどん首に管狐が絡みついてる」  刺々しい声で笑い続ける衛藤由宇の腕を、古明地杜人が慌てて掴む。 「由宇、やめろっ!」 「良いじゃないのぉ、別に。この神指では、人々が管狐にひれ伏すのは当然のことなんだから」 「いいから!」  衛藤由宇の手を引き、彼は人混みを掻き分けるように走り出す。周囲の祭り客たちの視線が、二人に対する畏怖と憤りになって注がれていることに気付いたのだろう。
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