廃校のさくら

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廃校のさくら

 早朝から霧雨が降っていた。夜が明けてもなお、空は暗い。晩秋の雨は冷たく、レインウェアを着ていても肌寒さは拭えない。だがそのうち体も温まるだろうと、寝不足でだるい体を押して僕はいつも通りランニングを始める。  遊歩道を渡り、公園のジョギングコースへと向かう。いつもはここを二周するだけなのだが、今日はなぜか無性に別のルートを走りたくなった。まあ、たまにはこういう気まぐれも悪くないだろうと、僕は足の赴くままに走ることにした。  遊歩道を通り過ぎ、その先にある住宅街を横目に走っていた。さすがにこんな朝早くから出歩く人はほとんどいないらしく、すれ違うのは僕と同じように走っている人ばかりだった。  しばらく走っていると、遠くに中学校が見えてきた。僕が卒業した中学校だ。そこそこ歴史があり、ゆえに耐震性が問題となっていた。  ――そうだ、もうすぐ学校、取り壊されるんだっけ。  父親の仕事の都合で今の街に転校してきたのは冬休みが終わった直後、中学校を卒業する三ヶ月前のことだった。本当は前の中学校で卒業したかったが、特に仲の良かった友達がいたわけでもなかったので、僕は大人の事情というものを察して不平は言わなかった。  そして僕が三ヶ月だけ通った中学校は、僕たちの年代を最後に廃校となることが決まっていた。残った在校生たちも、今は別の校区にあった学校へと通学している。少子化の波、なんてものがここにも押し寄せてきていたらしい。  たいした思い入れがあるわけでもないのに、それでもやはり自分が卒業した学校が壊されるのはどこか寂しい。いつもと別のルートを通りたくなったのもこの中学校が僕を呼び寄せたのだろうか、などと妄想してしまう。  学校の東門の前まで来た。『あの日』以来、しばらくは警備員がいたりと厳戒態勢が敷かれていたが、生徒がいなくなってからはそれも一切なくなり、簡単なチェーンがかけられているだけだった。  僕は門の脇にある花壇を登って門を飛び越え、すぐ近くの施錠された窓ガラスから中を覗いた。  ここは確か理科室だったっけ。少しの期間しか学校にはいなかったので、記憶もあいまいだ。理科室と思われる場所は機材も椅子もすっかり運び出されて、据え置き型の水道がついたテーブルが残されているだけだ。
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