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所謂良い所のお坊ちゃん・お嬢ちゃん特有のスレた感じや、気取った感じがしない。まさか有名な超名門校の制服を着ている人間が、こんな笑顔を浮べられるなんて想像もしていなかった。
所謂社交場では同世代の連中でさえ、家柄だなんだと目を光らせては、家の価値で付き合いを選んでいる気がある。別段其れはオレ達の住む世界で当たり前であるから、いまさら何とも思わないけれど。それでも、こうして無邪気な笑顔を見せられれば、驚愕だって抱こうものだ。
「……ああ、悪い。急に黙り込んだから何だと思って、オレもオレで身構えてたんだけどな?意外な質問だったからびっくりした」
「ちょ、ちょっと気になったんすよ!アンタの学校の生徒ってあんま走る様なイメージもねぇし、尚の事」
「まあ、確かになぁ。運転手の送迎が至極当然。自分の足で歩いたり走ったりが縁遠く見えちまうのは、まあ仕方ねぇさ。で、そんなイメージを抱かれている1生徒であるオレが走っていた理由はな…………好きな作家の新刊が今日発売なんだ」
これまた意外な返答であった。思わず驚愕が顔にありありと出ていただろう。少年は何処か気恥ずかしそうに白い頬を赤らめて、ぷいと視線を逸らしてしまう。
「でも、其れこそ使用人に頼めば良いんじゃないっすか?そもそも書店の方から出向いてくれそうっすけど」
「両親はそうしてるよ。でもな、やっぱ自分の足で店に行って、自分の手で買いたいモンだろ。好きな物なら尚更」
お前だって分かるだろ?
そんな目で見られた様な気がしたのは、気のせいだろうか。オレの期待が生んだ錯覚?
期待。
其処でオレは自分の気持ちに気付く。オレは此の少年の事、気に入ったし、気になってる。
家柄とか、付き合っておくべき関係とか、そういうのは全て関係無く。
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