赤い糸、結びましょう？

１

「あー、クソ。面倒っすねぇ」
　文句を漏らしたところで電話が鳴り止むワケではない。オレは観念して、通話をタップ。
『坊ちゃん！また同級生からの告白をお断りになったんですか！？』
　此方が名乗る暇も与えず、鼓膜を破く腹積もりかと疑心さえ抱く声量で電話向こうの人間が叫ぶ。
　耳がキンキンしてるっす……。
「あー、耳が早いっすねぇ……」
『はぐらかそうとしても無駄です！まったく、旦那様や奥様だって坊ちゃんがなかなか好い人を見付けないのを心配に思ってますし』
「別に心配に思ってんのは後継者の事でしょ？其の辺は適当にやるって言ってるじゃねぇっすか。元より恋愛婚なんて許されてる身じゃねぇんだし」
　聞き飽きた説教を遮る。もっとも此の後また、聞き飽きた説教が展開されるのをオレは知ってるけど。
　案の定オレの言葉に、そういう問題ではないだの、恋を知っておくのは大切だの、聞き飽きた説教が届く。
　だからオレは聞き流す。
　別に結婚しないなんて言ってない。オレは其れなりの家柄の娘さんを嫁に貰って、後継者を作らなきゃいけない立場なのは重々分かってる。
　にも関わらず「人を大切に想う気持ちは必要だから、恋くらいは経験しておけ」と余計な世話まで両親や親戚連中にされてるんだからたまらない。
　無論両親に雇われている使用人達も両親の味方である。曰く坊ちゃんオレを心配している、らしいが、余計な世話だ。
　そもそも当たり前の様に愛人を囲ってる人間に愛だの人を想うだの、説かれるとは思わなかった。或いは見抜かれていないとでも思っているのか。其れだけ節穴の目を持っているとしたら、恋を経験していない以上に頭首として不適切だろう。