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内田君は私を抱かない。
女の子も、男の子も、他のクラスの子にだってするのに、私だけは抱かない。
「おはよう、ヒナっち!ケイ君も、おっはよー!」
今日も廊下が騒がしい。内田君が登校したのだ。
“ちょ…やめろって!”“もー、うっちーセクハラ!”
親しげな呼び方と笑いを含んだ抗議の間には、ハグがある。
ナリ君、ヒトミん、アネゴ、ポンちゃん。皆におはよう!と走り寄り、ぎゅうーっと抱き締めるのだ。
“やだー、彼氏に怒られる”“わー!チュウはやめろ、チュウは!”
ああは言っているけど、彼を本当に嫌がっている人はいないと思う。内田君は、皆に“平等”だから。
たとえ、私みたいな人間にも。
「おはよう!立花さん」
そう言って後ろから両肩に手をポンと乗せてくる。“さん付け”も、こうして肩を叩くのも私だけだ。
「おはよう」
笑顔で答えるけれど、会話はそれだけ。嫌われてしまったのかもしれない…私があんなことを言ったから。
あれは、この高校に入学して三ヶ月経った頃だったと思う。
その頃にはもう内田君のハグは“あたりまえ”になっていて、四月みたいに悲鳴を上げる女の子も、逃げる男の子もいなかった。
彼はまだ私をアイリちゃんと呼んでくれていて、毎朝飛び付くように抱き締めてくれた。
その頃の彼は人懐っこくて、目が大きくて、背も私よりだいぶ低くて、クシュクシュでふわふわの髪が気持ちよくて、かわいい男の子だった。
だからなのか、よく子供扱いされていて、その度に怒って頬っぺを膨らませるんだけど、それがまたかわいくて。
そんな男の子がおはよう!って走ってくるのだ。最初は驚いたけれど、皆が受け入れるのに、そう時間は掛からなかった。
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