キレイな桜は。

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 肌寒い朝が嘘のように、昼過ぎになると春らしい陽気になった。それに応え、桜は満開、今年の桜はいつもより早い。沿道の人々は、桜を見て、口々にキレイと言う。彼らはスマホを構え、桜を撮る。桜は下に向かって咲く花、下から撮れば、キレイだろう。  僕もスマホを片手に寄り道をする。川沿いの空き地のような公園に入り、人々に交じって写真を撮る。人々は、その写真を誰かに送っている。フェイスブック、LINE、インスタグラム、人それぞれ。僕も彼らに交じり、画像をツイッターに投稿しよう。   僕は、写真を撮っていたスマホを持ち替えて……。おっと、落とした。僕は、スマホを持ち上げると、その下敷きになった桜の花びらを見つける。周りを見渡すと、あちらこちらに花びらが散っている。人々は、お構いなしに歩き回る。    ふと、春の気の抜けるような風が吹く。その風に乗って桜の花びらが舞い、落ちる。人々は、キレイと騒ぐ。僕のスマホを落とした跡にも、桜の花びらが一枚二枚と落ちる。彼らの足元には、舞い落ちた花びらがある。彼らは、まだ天を見上げて、写真を撮っていた。  僕は、公園を出る。僕は、スマホに傷がないかだけ確認すると、スマホを操作する。画像アプリを起動、さっき撮った写真を選ぶ。僕が公園を出たとき、その写真は、消えていた。桜の花は、それから撮っていない。
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