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それ以降は叔父の家にいる間はちょくちょく優と会う様になる。
場所は決まって神社の桜の木の下。
桜が咲く時季が過ぎようが、気付いたらそこが彼と会う時の約束の場所になっていた。
神社の境内の中なので、遊ぶと言っても他愛の無い話をするだけ。
…でも、叔父・叔母夫婦に預けられ、見知らぬ土地に中々馴染む事が出来なかった私にとっては、優との話は、喩え、他愛の無いものでもとても癒された。
そんな中、月日は経ち、私達は小学六年生になった。
ここは宮城と言っても仙台市の様な都市部では無く、田舎の方なので小学校はあっても中学校は無い。
私は仕方ないので、実家へ戻る事になる。
なんでもない一日、
でも、お別れの日。
最後の日までやっぱり桜の木の下なのである。
優と初めて出会ったその時の様に神社の桜は満開に咲き誇る。
私の目には、それは美しくも同時に「もう、優とは会えないんじゃないか…?」と思える永遠の別れとも取れる儚い優しさだった。
私は優にそっと告げる。
中学校に進学しないといけないから、地元の千葉へと戻る事。そして、
「十年後、この約束の場所でまた、貴方に会いたい」と…。
彼は黙って真剣に私の話を聞いてくれていた。
そして最後の言葉を聞いた後、
「僕も君に会いたいから待っているね」と、満面の笑顔で笑った。
その顔には涙の跡がついていた。
優とは携帯の番号も教え合った。
千葉へと戻った私は地元の中学校・高校へと進学。
時折、優に教えて貰った電話番号やメールアドレスに電話やメールをするものの返事は返って来ない……。
内容は送れているので、間違ってはいない筈なのだけど、もう彼は私の事なんて忘れてしまったのかな?と落ち込んだ。
そして私は、或る疑問に至ったのである。
水瀬優と初めて出会ったのも、いつも遊んだのも、最後にお別れをしたのも、場所はいつも神社の境内の桜の木の下だ。
桜の木の下で笑う彼はなんとも人間離れした神秘的と言うか天使の様な姿だったので、私は彼は「桜の木の妖精」なのではないか?と思い至る様になる。
周りから見れば、気が触れた様に思われるのでこっそりと思い続けてきた。
彼の事を考えると心が優しくなり胸がきゅーっと締め付けられる。
恋などした事の無い私は恋がどういったものなのだか解らなかったが、この気持ちを恋だと確信するに時間はかからなかった。
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