~とある少女、櫻の樹の元にて~

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私は一瞬、間を置き、答える。 「だって幼なじみだもの。怖さなんて微塵も感じない。貴方はひとりぼっちの私に対しても、いつだって優しくしてくれた。…そんな貴方を怖がると思う?」 私は少し悪戯に問う。 すると彼は優しく微笑みながらこう答えるのであった。 「僕は桜の木の妖精。僕の事は誰しもが見える訳では無くて、心が綺麗で純粋な人にしか見えないんだ」 「……え?」 私はまた驚く。 「私は……、そんな心が綺麗な人間なんかじゃないよ…」 そう。悠亜は複雑な家庭環境で育った為か、自分を責め卑下しやすくなってしまった。 そうすると優は優しく首を横に振って。 「君は優しい心の綺麗な子だよ。大好きだよ、悠亜…」 そう言って優は再度、私を抱き締めながら壊れ物を扱うかの様にそっと頬に触れ、唇を重ねる。 その時、初めて、私達は両思いだったのだと知り、私は幸福感に満ち足りた。 「十年後の約束」 secret base ~君がくれたもの~ をずっと胸に刻みながら待ちわびたこの十年。 文月悠亜の想いが報われた瞬間であった。 ……すると、悠亜と優の再会を歓迎・祝うかの様に周りの桜の木々が一斉に揺らめき、まるで、結婚式に撒かれるフラワーシャワーの様に、ゆらゆらと桜の花びらを風に舞わせたのであった。
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