8人が本棚に入れています
本棚に追加
/8ページ
『井原中学第38期卒業生同窓会会場』
小洒落たドアを開け会場内に入ると、そこは既に賑わいをみせていた。
グラスを片手に数人のグループに纏まり、思い出話に花を咲かせている。
中学を卒業してから20年振りの同窓会。
旦那の出世話で盛り上がる奥様集団。
意気投合し、合コン状態で酒を酌み交わしている独身組。
中年の域にどっぷり浸り切っている連中は、弛んだ腹を叩きながら独自の健康法について議論を戦わしている。
男はそんな集団の間をかき分けながら会場の中央へと進んだ。
すれ違った巻き髪の女が、隣にいた友人の脇腹を肘で突き
「ねぇ、あの人誰だっけ?」
尋ねられたショートカットの女は振り返り首を傾げた。
「さぁ・・うちらの学年にあんなイイ男いたかしら?」
いかにも仕立ての良さそうな上質のスーツを纏った長身の男は、集団の中にいてもかなりの存在感を魅せ付けていた。
その上、連ドラでよく見かける中堅俳優に良く似た甘いマスク。
女性陣の熱い視線に爽やかな笑顔で応えながら、傍らにいた男に声を掛ける。
「よぉ、寺田。久しぶりだな」
「え?あぁ・・久しぶり」
少し薄くなりかけた頭部を撫でながら寺田勇雄は男を見上げた。
誰だったかなぁ…
遠い記憶を辿るように目を細める。
それを察した男が軽快な口調で
「スズキだよ。スズキタカシ」
「スズキ・・タカシ…」
口の中で小さく繰り返す。
寺田は改めて”スズキ”の顔をじっと見た。
確かそんな名前の同級生がいたような気はするが・・
はっきりと思い出せない。
「なんだ、忘れちまったのか。
まぁ、中学ん時は地味で目立たない上に体が弱かったせいで殆ど学校にも行ってなかったからな」
「そうか・・そのせいか。悪いな」
寺田は気まずそうな笑顔を浮かべた。
「いや、いいんだ。それにしても懐かしいな。2年の時だったか・・
口うるさい英語教師に悪戯をして泣かせた事があったよな。
ゴムで出来た蛇のおもちゃを教卓に仕掛けて」
「よせよ。昔の話じゃないか・・」
微かに頬を赤らめた寺田は、バツが悪そうに猫背の背中をますます丸めた。
「傑作だったよ」
心底愉しそうに笑うタカシにお愛想程度の笑みを返す。
最初のコメントを投稿しよう!