桜の下で暴かれるもの

2/3
2人が本棚に入れています
本棚に追加
/3ページ
「トシどこ行ったー?」 「知らねー」 「トイレじゃね?」  今日は研究室の新四年生歓迎会だ。宴もたけなわで、ちらほらと姿を見かけないヤツも出てきた。 「でも全然戻ってこねーよ」 「吐いてるんだよ」 「廊下で転がってね?」  岩崎優人はぼんやりと周囲を見回した。ビールは飲んでいるが、ほろ酔いで少し頭がフワフワする程度だ。優人は立ち上がった。 「俺見てくるよ」 「ユウ、わりぃな」 「ホンットにアイツは飲むとダメ」  優人は騒がしい部屋を抜け出した。まずは廊下に出て見渡してみたが、特に酔い潰れたヤツは見当たらない。トイレを覗いても同様だった。ついでに用を足してから、優人はふらりと校舎を抜け出した。焦りはなかった。酒の席で竹田利勝が羽目を外すのはいつものことだし、例え屋外で倒れていても、忘年会の季節でもないので死にはしない。  そうは思ったが、外に出ると身体がぶるりと震えた。思った以上に寒い。花冷えという言葉があるが、桜が咲くと必ず一度は冷え込むのは何故だろうか。  校舎の裏には大きな桜の木がある。ふと見に行きたいと思った。トシなんて見つかろうが見つかるまいがどうでもいい。酔い覚ましの散歩にちょうどいいと思った。桜の木が見えてきて、優人は足を止めた。  桜の下で人が寝ている。あの変な色のパーカーは利勝のものだ。優人はゆっくりと歩み寄った。  満開の桜の木の下で眠る彼の胸は安らかに上下している。死んでいるのかも知れない、そんな矛盾したことを考える。優人は利勝のすぐ傍まで寄って、膝をついた。  利勝は美男子ではない。背が高く、顔も身体も細くて骨ばっている。だがいつも騒々しい彼が安らかに目を閉じて眠る顔を見ると、意外に秀麗に見えてドキッとした。普段は意識しない睫毛も目につく。桜の花びらが幾枚か髪や頬についていた。優人は手を伸ばし、そっとそれを摘まみ取ろうとしたが、思いとどまった。利勝は起きる気配がない。優人は息を詰めて眠る彼を見つめる。気がついたら屈んで利勝に顔を近づけていた。
/3ページ

最初のコメントを投稿しよう!