一番乗り

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 野呂千恵子(のろちえこ)には同い年の秋生一成(あきうかずなり)という幼馴染がいる。   一成が彼の家族と共に、千恵子の住む街に引っ越してきた当初、地域に知り合いのいない一成の母親が幼稚園の保護者会で千恵子の母親の隣に座り、母親同士が意気投合。千恵子と一成も母親二人が世間話をしている最中に子供同士で遊ぶ仲になった。  一緒に遊ぶ……といっても、千恵子は四月生まれ。一成は三月生まれ。千恵子としては、実質一歳近く年下の一成の面倒をみてやっている気でいた。千恵子の母は「子供は少々怪我をして育った方が良い」という大ざっぱな人だったし、一成の母親はいかにもお嬢様奥様といった感じのおっとりとした人だったので、自分より小さく、線の細い一成を守ってやれるのは自分しかいないと千恵子は子供ながらに自負していた。  一緒に地元の小学校に入ってもそれは変わらず、常にいじめっ子たちの標的になりがちな一成を千恵子は守り続けた。そんな千恵子に一成の方も「ちえちゃん、ちえちゃん」と言って懐いていたが、小学二年生の秋、父親の転勤の為だとかで彼は引っ越してしまった。  その後もしばらくは、母親を介して電話で話したり年賀状のやり取りなどもしていたが、世のお約束通り、それもいつしか絶えていった。  そして、現在である。  この、「ノロチエ、ノート貸して」と千恵子の前で右手を出す無駄に背の高い高一男子。何を隠そう、これが秋生一成その人である。
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