テーマ:絶望

2/4
0人が本棚に入れています
本棚に追加
/4ページ
 俺の両親は離れて暮らすことになった。随分前の話だ。然程気にもとめない様子で、俺は高校時代の友人と飲んだりした際にそう話す。そんな家庭、今のストレス社会には探せば溢れるほど在るからだ。母親は片や先祖代々伝わる呪いで運が無いらしく、再婚相手が事業の立ち上げに失敗し、肺結核にかかり、手術を受けたものの、その間の収入は無く、派遣社員として再出発していた母親が全て請け負う事になり、再婚相手共々自己破産し、父親はみっともないギャンブルの嵐に溺れて自己破産し、周りに借金を作って生きている。そのしわ寄せは時折、働いてまだ5年そこそこの俺の元へと寄ってくる。  それでも家族は家族。尊敬するのは両親だと胸を張ってのたまう輩には笑顔を被りつつ、俺は金銭をせがまれても良いようにと、他者よりケチになり、節約し、貯蓄を志す。  まとまった職に就けたのが、当時は唯一の報いだった。  金が貯まる度に親の下へ消える生活を続けて数年の月日が流れたある日、職場において、俺は翌日使用する分の資材が保管庫に入っているのをその前日、事前に確認した。だが実際には資材は必要数には足りていなかった。では何故俺は“確認した”気になっていたのか。後日に自身で課した葛藤の末に導き出したのは、記憶の混濁であった。別の日に成した記憶が、似た様な状況、心理状況によってか後日に蘇り、恰もたった今の出来事のように錯覚させてしまったというケースである。  悪気があったわけではない。  呆けて仕事をしていたわけでもない。  いろいろな事柄に怯えつつも、考え、計り、動いていたのだ。  しかし結果は他者に余計な手間を掛けさせたのだから、結果論で見れば俺は悪だ。手間を負わされた側は俺の計りや恐怖に覆われた心情など知ったことではない。俺に対する憐情など欠片も無く、俺が口頭で伝えた理由に隠れた錯綜を推察してくれはしない。そして連中は悪である俺を晒し、妻との夕食の席で美味い酒と手料理とを前に愚痴をこぼし、
/4ページ

最初のコメントを投稿しよう!