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『俺はあいつだけは一生認めない』
『あんな奴入れるくらいなら最初から要らねぇよ』
などと罵り、嗤い、夜は女を抱き、三大欲求の全てを満たした上で、何も怯える事無く、明くる朝を迎えるのだろう。
俺は一人、豪雨が叩く窓の音に包まれ、暗い室内でコンビ二弁当の米を口へ運び、彼ら勝ち組の様子を想像し、妬みや悲しみを覚え、そしてそのあとから津波のように押し寄せる恐怖に身を硬直させる。
恐怖である。
明日への不安である。
雨の轟音がやけに響いて聴こえる。
眼球をぎょろつかせる。
暗い室内が、まるで自分の心の鏡であるかのような解釈が湧き、鬱屈とした気分が漂い出す。
ごく稀に飲む友人は、俺の目は死んだ魚のようだと笑う。部活をしていた頃とはがらりと印象が変わったらしい。
きっとそうなのだろう。俺の目は辛さを見過ぎて疲れたのだ。
容姿にも、勉学にも、運動神経にも恵まれない俺にはちょうどいい。
部活には高校の頃、がむしゃらに、真剣に取り組んだ。弓道部だった。
関東大会優勝が目標だった。身の程を知らずに、大真面目に考え練習に明け暮れた。
誰よりも早く朝練に行き、誰よりも遅く帰った。
関東大会で優勝すれば、有名な大学に推薦入学出来ると聞いていた俺は、貧乏な家庭でもどうにか賄える“特待”という資格が欲しかったのだ。
大学へ行きたかったのだ。
高卒と大卒とでは、就職後の収入に差が出ると聞いていたからだ。
親に負担は掛けたくなかった。
でも、結果は補欠。総体で予選落ち。
『お前は要領が悪かった』
『才能が無かった』
『ドンマイ』
3年間汗を流し、かじかむ手の痛みに歯を食い縛り、戦い続けた俺に与えられた言葉は、それだけだった。
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