第1章

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 0  わたしには、幼なじみがいる。  でかくて、無愛想。  いつも不機嫌そうな顔して、でも中身はそうでもなくて。  本当は温和で、体育会系ではなくインテリ。  いつも、本ばかり読み。  いつも、遠いとこを見つめてる。  夏島琴(なつしまきん)。  おじいちゃんが江戸っ子で、かっこいい名前なら任せろの結果らしい。  実際、かっこいいと思う。  中身は名前のとおりに爽やかではなく、どっちかというと、ねじれてるけど。  まぁ、うん、悪い奴ではない。 「何、ぶつぶつ寝言してんの。きもちわりぃ」  朝。  小鳥の鳴き声の代わりに、日ざしをさえぎって現れたのはキンの姿だった。  キンはいつも通りの不機嫌そうな顔。今はほんとに不機嫌なのだろ。  彼は背は一八〇を軽く越えて、その割には贅肉がないのでスマートには見える。だが、いつも鋭利な瞳のせいで厄介事をもらうことも多く、本当は草食系の中身な残念くん。  わたしと同じ、中二。 「おいコラ、何か俺のこと考えてそうだな。いいから起きろ」  と、シーツを引っ張り、奪いやがった。  私はへそも丸出しの、乙女としてはオイオイな格好で、流石に赤面する。 「ちょ、こらぁ! キン、何すんのよ。こら、勝手に人の部屋入らないでって言ってるでしょ!」 「お前が寝坊してるからだよ」  キンは、そう言って己の腕時計を指さす。時刻は七時半を越えていた。自転車で行ける距離とはいえ、八時の登校にはギリギリだ。 「ギャー、ギャー! あーもう、何で!? 何でわたしはこうも起きないの。もう、あっち行ってて着替えるから」 「起こしてあげたのに乱暴な扱いだな」 「おへそ見たくせにうっさい、ばーか!」 「んなの、誰もいらねーよ」  キーキー、と我ながら猿のように鳴くわたしと。  はいはい、と冷めた対応のキン。  あ、ちなみにわたしの名前は石塚(いしづか)ゆみ、だが。それはどうでもよくて。  問題はこの男、夏島琴である。わたしは、いつもキンと呼び捨てであるが。 「おい、早く行こうぜ。アホゆみ」  わたしが支度してる間、キンは玄関前で自転車に乗って待っていた。  こいつはどういう教育を受けてきたのか。  お母さんやお父さんはいい人なのに。どういう性格のねじれか。  わたしを呼ぶのに、いつもこうやって余計な一言をつけ加える。
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