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そして、奴の返事はいつもNOなので、それを伝え返しもしなきゃいけないので、労働は倍。しかも、フラれたときの恨みをわたしにぶつける者もいたりして、本当にたいへん。
はぁ、なんでわたしは、こうもあの幼なじみに振り回されなきゃならんのか。
いや、勉強で分からないことがあったら、聞いたり。
あと、買い物で重いものを持ってくれたりとか、その、助けてもらったりもするけど……うん。
003
その日、どういうわけか。
わたしは、学校が終わっても教室に残った。
誰もいない、教室。
夕焼けが部屋に入り、わたしだけの影法師をつくる。
わたしは、一人考えていた。
わたしは、あの男の何なんだろう。
というか、わたしはあの男のことをどう思ってるのだろう。
あの男?
もちろん、夏島琴のことだ。
「……ぁ」
気がついたら、ちょいと寝ていた。
机に顔をふして、豪快に寝ていた。
あぶなかった、このまま夜まで居残るんじゃないかと焦ったが。
「おい、あほゆみ!」
と、あの男の声が聞こえてきた。
キンだ。あいつ、いつも駐輪場で合流するから、いつまで経っても来ないわたしに苛ついて来たらしい。う、うぅ、悪いのは全面的にわたしだけど。でも、だからって毎度毎度ばかとか、あほって言わないでくれるかなぁ。地味に傷つくのに。
「ったく、こいつ寝てるのか。おい、ばか! あほ! ……あーったく」
うるさい、こうなりゃふて寝だ。
起こせるものなら、起こしてみろ。そんな罵倒なんかじゃ起きないぞと。
わたしは、そばに奴が近づいてる気配がしても、たぬき寝入りを決めたのだ。
「……ゆみ」
ばっ、とわたしは起き上がる。
視界に入るのは、目を見開くキンの顔。
にやぁ、と思わず口角をつり上げる、わたし。
「なんて言った? なんて、なんて言った? ねぇ、もう一回――あ、ちょ、ごめんってば!」
キンが、わたしの名前を呼んだ。
ばかもアホもなしに、素直にわたしの下の名前を呼んだのだ。
すごい驚いて、ちょっとからかい気味に言ってしまったのが悪かったかな。彼は赤面して、そそくさと教室から出て行こうとする。わたしは慌ててカバンをしょい、追う。
「ごめんってば、ごめん! でも、なんかうれしくて。ねぇ、もう一回。もう一回聞かせてよぉ」
「うるせーばか」
耳まで真っ赤にしながら、顔をそむけるキン。
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