2/11
0人が本棚に入れています
本棚に追加
/11ページ
「あ、ハルティア戦記!」  読書に没頭していると、ふと声をかけられて意識が浮上した。いつの間にか、目の前に今井くんがいた。  今井くん。今井陽介くん。まだ五月でほとんどのクラスメイトの名前を覚えていない私だけれど、彼の名前だけは知っていた。だって、彼は勉強良し、運動良し、顔良し、という三拍子が揃った、クラスの中心的人物だったから。事あるごとに彼の名前が出されれば、こんな私でも覚えてしまうものだ。  そんな今井くんが、私の今読んでる本を見て声を上げていた。 「葛城さんもその本読むんだ! 俺も好きなんだ、ハルティア戦記!」  そう言って、にっこりと微笑む今井くん。心なしか、頬が僅かに紅潮しているような……。  って、そんなことを考えてる場合ではない。これはもしかしたら、神様が私にくれたチャンスかもしれない。本仲間を増やすチャンス。これは逃してはならない。  私はゆっくりと、緊張しながら口を開いた。 「い、今井くんも? 私も、まだこの巻までしか読めてないけど、とっても好き」 「本当っ!? それ発売されたの俺たちがまだ三歳くらいの頃だろ? だからあんまり読んでる人いなくて……ねぇ、今日の放課後空いてる?」  少し不安げに今井くんは私に訊いてきた。答えは考えるまでもない。 「う、うん。もちろん」  言い終わってから気づいた。この質問に「もちろん」って……私、すっごい可哀想な人じゃ……?  けれど幸いにも今井くんはそのことに気づかなかったようで。ぱぁ、と瞳を輝かせた。 「じゃあさ、一緒にどこか行こ? 葛城さんといっぱい話したい」 「うん、いいよ」 「やった!」  今井くんは笑顔で私の手を掴み、ぶんぶんと振り回した。 「これからよろしく、葛城さん」  やっと好きな本のことを語れる友人ができてすごく嬉しくて、私も満面の笑みを浮かべたのだった。
/11ページ

最初のコメントを投稿しよう!