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「その後のカインが本当たまらないの!」
「分かるよ、葛城さん! あのカイン本当かっこいいよな!」
「分かる? 分かる?? 本当にかっこいいよね、カイン……」
「本当、漢の中の漢だよ……」
しんみりとした空気が満ちる。あの出会い以来、私と今井くんは放課後、学校に連絡されるのを懸念して公園で『ハルティア戦記』について語っていた。
『ハルティア戦記』は古いライトノベル。襲撃により王都を追い出された王子ルイスが、騎士のカインやヒロインのサラなどの者たちと共に王国を取り戻す話で、知る人ぞ知る名作だ。
今井くんも行っていた通り、この作品が書かれ始めたのはもう十一年も前。私たちが三歳の頃だ。そのため、あまり読んでる同年代がいない。
まさかそんな作品がきっかけで友人ができるなど、考えたことがなかった。
「あ、もうこんな時間」
今井くんが時計を見て言った。もう五時。何となく薄暗いはずだった。……それに、少し寒い。
「じゃあ、帰ろっか」
「そうだね」
そのまま解散する雰囲気だったけど、私は不満だった。本当はまだ語りたいけど、放課後だけじゃ時間が足りない。
……そう言えば、明日は土曜日だ。そのことに気づいて、勇気を振り絞って私は今井くんに提案する。
「あ、あの……明日も、どこかで話さない? ほんとう、私、人と語れるのが嬉しくて……」
私がそう言うと、今井くんは少し目を見開いて……笑った。
「うん、そうだね。俺も葛城さんと話したかったし」
そのことに安心した。……嬉しい。頑張ったかいがあった。
私がゆるりと口元を緩ませていると、今井くんはぽつり、と言った。
「それに、葛城さんのこともっと知りたいな」
とくん、と跳ねる鼓動。
あれ、これって……小説でよく読んだ……。
「じゃあ、明日の十時にここでどう? その後どこかのカフェに行こう?」
「え、あ、うん、良いけど……」
「良かった。じゃあ、また明日ね、葛城さん」
「う、うん、またね……」
そのまま今井くんは笑顔で去っていって、私は一人、ぼうっと突っ立っていた。
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