プロローグ

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 “sacrifice”  その英単語を初めて見たとき、私の心の中を桃色の花弁がゆらゆら舞い降りていった。  sacrifice 『犠牲』  戦いに敗れ、自らの体に刃を突き立てた勇士たち。祖国の地を思いながら、虚空に散っていった戦士たち。この国の儚い犠牲は、昔からずっと、桃色の花に例えられてきた。  桜 “sakura”  ノートの端に、そう、ヘボン式で書いてみる。s,a,k。ほら、違うじゃない、と自分に言い聞かせるために。洋の東西、時差9時間。そんな2つの国の言葉が、同じような語感で、同じような意味を持つことなんてありえないよ、と頷くために。  そうでもしないと、耐えきれる気がしなかったから。  桜のように、儚く。何かのために犠牲となるため。自らの命を絶ちたいという欲求を、抑えられる気がしなかったから。  私の中に受け継がれてきたDNAが、すぐに目覚めてしまいそうだったから。  
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