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「一つだけ聞きたいことがあるのだけど彼女の名前を教えてもらっていいかい。」
落ち着いた声を出したつもりだがおそらく声は震えていただろう。
男から彼女の名前を聞いた瞬間、私の体はまるで気温が一つ前の季節の時になったかのようにしゃがみ込んだまま固まって震えた。
男は彼女の名前を話し、そのまま続けた。
「やっぱり桜は僕のお守りだ。彼女と今夜お花見をしていたら探していた綺麗な宝物の元の持ち主ともこうして引き合わせてくれた。」
私は男が今ここで桜が大好きな最愛の彼女との花見をたのしんでいたこと、私のあの時からこれまでの行いがこの男によって全て無駄になったことを確信した。
そして声を出そうとするのと同時に頭に強い衝撃を覚え、意識が無くなっていく中、ピンクの絨毯の上に倒れた。
意識が薄れる中、男の最初に話しかけられた時のようなゆっくりした口調の声が聞こえた。
「桜は好きですか?」
薄いピンクの花びらははらはらと散っていた。
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