「桜は好きですか?」

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春風が心地よく私を追い抜いていくのを感じる。その風に続くように暗い夜道をあの桜の木に向かって歩いていく。いつものようにラジオを流しながら桜に向かう。ラジオからは最近起きた事件のニュースがいくつか流れている。 私はあの日から毎日この決まった時間にあの桜の木に足を運んでいた。そして自分の気が済むまで桜を見ることが日課であった。 しばらく歩くと白く薄暗い街灯の灯りの中から明るく感じる淡いピンク色の桜が見えてきた。 桜に近づくとそこにはいつもと違い、見慣れない若い男が立ってあの桜の木の下で桜を見ていた。私が桜の木の下に近づくと男は私に気づきゆっくりとした話し方で声をかけてきた。 「こんばんは。あなたもこの桜を見にきたんですか。?」 「ええ、そうです。散歩がてら毎日見に来ていますよ。」私は落ち着いた声で話した。 男はいいですねと小声で呟きながら桜を見上げている。少し間を置いて男は急に私の方を向き先ほどとは違い、しっかりとハッキリとした声で「桜はすきですか?」と聞いてきた。 多少驚きながらも私は答えた。「好きじゃなかったらわざわざこんな時間に散歩してまで見にきませんよ。」男はかすかに微笑み、私はさり気なく目線を桜から逸らして桜の周りを確認した。 ぱっと見た感じでは花びらが地面に落ちてピンク色で埋め尽くされていた。そのせいで分からなかったがいつもとあまり変わらないと思え、再び目線を桜に戻した。そして少し音量が大きいと感じたラジオの音量を下げた。 「僕はあまり好きではないんです。けどこれまでの人生の中で桜は良くも悪くも関わっていて、大切な人や会いたい人と引き合わせてくれたりしました。今では私の中では桜はお守りのようなものなんです。」男は意味ありげにそう話した。
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