「桜は好きですか?」

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私は無言で聞きながら桜を見上げた。確かに私が未だにこうしていられるのは桜のおかげだろう。もしこの桜がものを言うことができるものなら私はここにいないだろう。 この桜があの時、盗んだ宝石をその大きな幹の下にしまっていてくれているから私はこうして生活出来ている。 だがそのおかげでこうして毎日宝石を掘り出されていないかを確認する羽目になったが時効まで隠し通してくれるのなら安い駄賃だろう。 ラジオも毎日聞いているが宝石が桜の木の下から掘り出されたなんてニュースは微塵も存在を感じさせない。あるのは強盗、行方不明者、詐欺のことなどのニュースだけだ。 「私にとってもそうかもしれないですね。」軽く笑いながら男に話した。 あと1年程で時効になる。そうしたらこの町、いやこの桜ともおさらばだ。再び今度はしっかりと確認するために地面に視線を落とした。 「今付き合っている彼女も桜が大好きで住んでいるマンションも桜が見えるとこで、春には必ずお花見に行くんです。」 男が急に口を開いて話し始めた。私は地面を見ながらも彼の話に耳を傾ける。 「しかし最近その彼女と喧嘩をしてしまったんです。些細な事だったんですけど僕にはゆるせなかったんです。」 男の声が少し震えて呼吸が乱れていた。感情がこもったのか今までの男ではないようだった。
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