1章 悠との出会い

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「今日はどっちのクラスに行くか?」  いい加減な雰囲気で先生が聞いてきた。無精髭だしサンダルだけど、ギリギリ身だしなみは整っている。  αクラスの担任は、αでなければできない。小3の担任だろうと、βでは対応ができない。右京先生は間抜けた顔をしているけど、これでも優秀なんだろう。 「選んでもいいんですか?」  そんなことを聞かれるとは思わなかった。 「急にΩクラスからαクラスはついていけないだろう。とりあえずはΩクラスに行って、何日か家で自習をしてからでもいい」  淡々と先生は言った。  先生の机の上に十冊程度の教科書が乗っていた。Ωクラスでは教科書などあってないようなものだったから嬉しかった。一番上に置いてあった算数の教科書を手にして中を見る。 「これなら大丈夫です」  パッと見、引っかかるような問題はなかった。閉じて一番上に戻す。 「Ωクラスの授業はヒマだったので、通常クラスの教科書をもらってやっていました」  小3だとΩクラスは生活力を高める授業ばかりで、それが必要だとあまり思わなかった。 「通常クラスに落ちることはあっても、Ωクラスで授業を受けることはなくなるから、最後に受けてきたらどうだ?」  面倒くさそうに先生は言った。 「いいえ。αクラスに行きたいです」 「挨拶とか、いらないのか?」  どうして先生がそう言うのか、わからなかった。 「同じ学校にいるのに、挨拶なんてしなくてもいいんじゃないですか?」  そう言うと、先生は特に反対しなかった。 「検査でαだと判明しても、授業についてこられないこともある。無理だと思ったら遠慮せずに言うように」  先生はにこりともせずに言った。  嫌味で言ったのではなく、ただ事実を言っただけだろう。優れた遺伝子を持つαだろうと、努力をしなければ授業についていけないらしい。 「はい。ありがとうございます」  先生の机にあった教科書を全部持つ。ずっしりとした重みが両手にかかる。重かったけれど、嬉しかった。  Ωの授業は退屈だった。彼らが喜ぶことでも、楽しいとは思えなかったからだ。でも、これからはαとして勉強ができる。この重みは勉強を行えるという証だった。家に帰ったら隅から隅まで読もう。  チャイムが鳴り、先生が職員室を出て行ったので、それについて行く。
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