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「すみませんけど、今の彼女を大切に出来ない人と付き合っても幸せになれる気がしないのでお断りします。それに私には到底、あなたのありえないセンスが理解出来る気がしないので。」
眉間に寄る皺を解そうとも思わない。むしろ深く刻む勢いだ。
妃奈扇は二重瞼で女の子らしいぱっちりとした目をしているけど、私は細長でキツめだから睨むと結構迫力がある。案の定、宮前は少しだけ狼狽して、そしてそれを恥じたのか、肩を怒らせて鼻白んだ。
「センスの悪さなら、ソイツの方が最悪だろ!」
ソイツと言って指差したのは、私の後ろに立つ妃奈扇。勢いに圧されたのだろう。びくりと震えた妃奈扇は、商品タグが付いたままのシュシュを握り締めたまま俯いている。
確かに妃奈扇のセンスは独特だ。プレゼントだってお弁当のおかずだって、周りの誰からも微妙な反応を返される事請け負いで、私もさんざんセンス悪いなぁとからかってきたけれど。この男のように、他人が決めた【センスの良いもの】や【流行りもの】を享受して簡単に満足するだけよりは、妃奈扇の方が何倍もカッコいいと私は思う。
それに、自分が貶められたからといって他の誰かに転嫁するのは褒められることじゃない。相手が妃奈扇なら尚更だ。本人が許したって私が許さない。
でも、そんな事を延々と説いたってコイツには何も響かないだろうことだけは確かだ。馬の耳に念仏ってやつ。
だから奪った。
後ろで妃奈扇が握り締めてた、淡い黄色のシュシュを。
急なことで呆気に取られた妃奈扇が「えっ?」と声を発した時にはシュシュはもうレジを通していて、そこでようやく、そのシュシュをまともに見た。
「(やっぱり、ぶっさいくなネコ。)」
さっきのブローチと同じシリーズなのか、シュシュに付属したチェーンアクセの先に猫だか狐だかのプラスチックプレートが付いていた。ニヒルに笑っているのかシックに悲しんでいるのかはやっぱり分からない。妃奈扇曰く【鬱々とした表情】らしいのでそれで良い。どうしたって可愛くは思えないけど。でも、もしかしたら可愛いかもしれない。
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