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威勢よくショップを飛び出したものの、これからどうしたものか。出禁にはならなかったけど今から戻るのは気が引けるし、宮前が辺りをうろちょろしていては敵わない。出来るだけ遠くに行きたいけど、アパレル関係に疎い私は学生の身分で気軽にショッピングが楽しめる場所について明るくない。
妃奈扇に聞けば一番良いんだけど、宮前の言動がよほどショックだったのか、ショップを出てからろくに声を発していない。こんな時、自然に慰める方法を今すぐ誰か教えてほしい。
「あっ。妃奈扇、クレープ食べない?」
繋いだ右手を引いて妃奈扇の気を引く。
周囲を見渡してようやく見つけた糸口は、今年出来たばかりのクレープ屋さん。駅から割りと近い場所にあるからうちの生徒で学校帰りに立ち寄る人も多くて、私も妃奈扇や他の友人と何度か購入している。休日の今日はなかなかの繁盛ぶりで、少し並ぶ必要はあるけど、妃奈扇は甘いものが好きだから乗ってくるはず。
ちらっと顔を上げた妃奈扇は案の定口元を緩ませて、小さくこくりと頷いた。
「なににする?チョコにイチゴにキャラメル…おかず系も捨てがたいよね。」
明るく話題を振れば、ようやく安心してきたのか繋いだ手が熱を持つ。ゾンビみたいに冷たかったから、これで一安心だ。ゾンビの手なんて触ったことないけど。
ラミネート加工がされたメニューを手渡すフリで手を離す。
忍耐強いと自負しているけど、好きな子といつまでも手を繋いで平気でいられる自信はない。名残惜しかったけど。もっとすべすべした柔肌を堪能したかったけど。
煩悩をすべて目の前のクレープへの食欲に変換させる為に自分もメニュー表を覗き込んで考える素振りをすれば、妃奈扇も一緒になって頭を傾げ始めた。単純なところもアホ可愛い。
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