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「私、このキャラメルとダブルナッツにする。」
「…それでいいの?」
「うん。これにする。」
妃奈扇が選ぶにしては普通だ。メニュー表には人気ナンバー2とある。普通だ。
思わず聞き返すも、ホイップクリームの上に細かく砕いたナッツとキャラメルソースを指差すばかりで、けれど神妙な面持ちは今から美味しいものを食べようとする時の顔じゃない。
「ホントにこれでいいの?期間限定あるよ?」
「うん。今日はこれにする。」
「ホントに?次来たら無いかもよ?」
「いいの。…せっかく忍と一緒だから、美味しいの食べたいし。」
ああ、誰か救急車を呼んでほしい。私が乗るから。
ぼそっと呟いた妃奈扇は、自分が何を言っているのか分かっているのだろうか。唇を尖らせて俯く妃奈扇はただでさえ超絶可愛いのに、こんな健気な発言をされたら可愛さに悶絶して倒れてしまいそうだ。
「分かった。じゃあ、注文するね。」
女の子三人組のクレープを巻く間に、二人居る店員の内の一人が注文を尋ねてくる。もしかしたら、だらしなく垂れ下がった頬を見られてしまったかもしれない。妃奈扇が可愛すぎるせいだ。気持ちと一緒にぐっと頬を引き締め、未だにメニュー表を眺めている妃奈扇が口を開いてしまう前に早口で言いきった。
「キャラメルとダブルナッツをひとつと、クリームチーズとはちみつレモンソースをひとつ。」
「…忍?」
ただでさえ大きな瞼を瞬く妃奈扇のきょとんとした顔が可愛すぎて困る。
私の好みが変わったわけじゃない。そもそもイチゴがすごい好きというわけでもないけど。
キャラメルのクレープを指差して頑として譲らない妃奈扇の視線が、期間限定のこのクレープに張り付いていたから。さんざんセンスが悪いと言われて気にしているのだとしたら、そんな事で自分を曲げてほしくないと思っただけ。
「妃奈扇のセンスの悪さが移っちゃったみたい。どうせだし半分こしない?」
「…っ!しのぶぅぅぅ~っ!だいすきぃぃっ!付き合ってぇぇ!」
「だから、もう、センス無いこと言うのやめてってば。」
名は体を表す。
私が自分の想いを忍べるのは、両親がつけてくれたこの名前のおかげなのかもしれない。女の子同士だからこそ許されるハグを受け止めながら、いつか瓦解してしまいそうな忍耐力を必死で保っていた。
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