バラオの棘

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 しかしその後、なぜか神原くんは私にしょっちゅう連絡をくれて、たまに時間が空くと、放課後の空き教室でおしゃべりをするようになった。  神原くんと話すのは楽しかったし、気に入られてると思うと嬉しかった。「気に入る」という言葉を使う時点で上下関係はお察しだけど。呼ばれれば尻尾を振って応じていた。    そんな関係がしばらく続いて、2人で話しているところをクラスメイトに見とがめられて。  そしたら神原くんが、 「俺と付き合ってくれませんか」  って言った。  今ならわかる。  あれは、噂の的になってしまうであろう私を気遣ってくれただけなのだ。  でもそのときの私は舞い上がってしまった。    舞い上がって、思考能力をなくして、真っ赤になってうなずいた。  誤解が解けるまでに、そう時間はかからなかった。  付き合いだした次の日は、クラス中から視線で刺され、ちょっとでも話したことのある子たちからはいろいろ聞かれた。  いつも神原くんの周りにいる女の子たちに絡まれたこともあった。  でも一週間もすると、ぱったりと収まった。    神原くんがなにも変わらなかったからだ。  みんなに平等に、笑顔で、優しく。  私と話していても、ほかの女の子に話しかけられたらそっちにいく。  家庭科で作ったお菓子は誰からのだって受け取るし、告白してきて振られて泣いた女の子の頭は撫でてあげた。  誰にでも優しいってことは、誰にも優しくないってことだ。そう思った。  私は特別じゃなかったのだ。  それに気づいたとき、舞い上がっていた私の気持ちはしゅるしゅると萎んで、神原くんにときめくのをやめた。 ◇◇◇
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