バラオの棘

15/17
前へ
/17ページ
次へ
「……なんで怒ってんの?神原が放置してたくせに」  陽くんが挑発するように言った。  その発言に私の方が目を剥く。 「それは、」  神原くんが言葉に詰まって、ぎゅっと手を握ってくる。  え、いいよそんなの、電話してなよ。なにこの状況。  私だけがついていけずに、この場の空気に戸惑っている。   「半端に構うならもう別れてやれよ。こいつ不器用なんだから」  陽くんのその言葉には、親しみが込められていて、少し申し訳なくなった。なんだかずいぶんと心配をかけていたらしい。 「……半端じゃないし、こいつって言うな」  むっとした様子の神原くんに、陽くんが軽く目を見開く。私も神原くんを凝視してしまった。  なんだそれは。  その発言は、なんだかまるで、 「神原って、エリのこと好きなのか?」  私の心によぎった可能性を、なんの衒いもなく陽くんが口にする。これだから脳筋は嫌だ。   「当たり前だろ。ていうかだからエリって言うなよ」 「……え、」  思いもかけない神原くんのセリフに、頭の中が真っ白になる。  同じくぽかんとしていた陽くんが、私より先に正気に戻って、私と神原くんの顔を見比べた。 「あーー、……ああ、そうなのか。悪い、オレ勘違いしてたわ」  きまり悪そうにぼりぼりと頭をかいて、首をかしげる。  それからなにか言おうと口を開いて、でも固まってなにやら考え込むと、小さく「うん」とうなずいた。 「オレ、帰るな。お前らは二人でもうちょっと話し合え」  一方的に、一人で納得して、「じゃ、マジで悪かった」と言って瞬く間に去っていった。
/17ページ

最初のコメントを投稿しよう!

47人が本棚に入れています
本棚に追加