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「……え、」
きっと困った顔をしているであろう私を見て、神原くんはもっと困った顔をして顔を伏せた。
「なにそれ、そんなの、だって、わかるでしょ」
これまた、らしくない弱気な声に、私はぽかんとしてしまう。
「え、わ、わかんないよ。神原くん、ほかの女の子ともふつうに仲良いしベタベタしてるし」
「ベタベタ……ってそれは、」
神原くんは、私の言葉にショックを受けたような顔をした。
「……木村、俺と付き合いだしたころ女子たちに絡まれてたでしょ。あんな目にあったらすぐ嫌気がさして振られると思って、だから」
自信なさげに、小さな声で話す神原くん。
信じられなくて、でもほんのり赤く染まった神原くんの耳が、にわかに私に現実感をもたらす。
「本当に?」
おかしい、こんなのおかしい。
諦めていた。私は神原くんの特別ではないし、神原くんの言葉に特別な意味はない。
だから、期待してないし、心も動かない。
なのに、神原くんの目はうっすらとうるんでいて、そこに映る私の顔はそれとわかるほどに真っ赤だった。
「俺、木村が好きだよ」
大切そうに紡がれた言葉に、心が震える。
「もうやだ、かっこ悪いこんなん」
とうとう腕で顔を隠してしまった神原くんに、胸がギュッと締めつけられる。
「……私、かっこ悪い神原くんの方が好きだよ」
思い切ってそう言ったら、掴まれた手の温度が少し上がった。
fin
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