バラオの棘

17/17
前へ
/17ページ
次へ
「……え、」  きっと困った顔をしているであろう私を見て、神原くんはもっと困った顔をして顔を伏せた。 「なにそれ、そんなの、だって、わかるでしょ」  これまた、らしくない弱気な声に、私はぽかんとしてしまう。 「え、わ、わかんないよ。神原くん、ほかの女の子ともふつうに仲良いしベタベタしてるし」 「ベタベタ……ってそれは、」  神原くんは、私の言葉にショックを受けたような顔をした。 「……木村、俺と付き合いだしたころ女子たちに絡まれてたでしょ。あんな目にあったらすぐ嫌気がさして振られると思って、だから」  自信なさげに、小さな声で話す神原くん。  信じられなくて、でもほんのり赤く染まった神原くんの耳が、にわかに私に現実感をもたらす。 「本当に?」  おかしい、こんなのおかしい。  諦めていた。私は神原くんの特別ではないし、神原くんの言葉に特別な意味はない。  だから、期待してないし、心も動かない。  なのに、神原くんの目はうっすらとうるんでいて、そこに映る私の顔はそれとわかるほどに真っ赤だった。 「俺、木村が好きだよ」  大切そうに紡がれた言葉に、心が震える。 「もうやだ、かっこ悪いこんなん」  とうとう腕で顔を隠してしまった神原くんに、胸がギュッと締めつけられる。 「……私、かっこ悪い神原くんの方が好きだよ」  思い切ってそう言ったら、掴まれた手の温度が少し上がった。 fin
/17ページ

最初のコメントを投稿しよう!

47人が本棚に入れています
本棚に追加