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その日は午前だけの授業で、三者面談があって、私は親が仕事に戻ると言って帰ったから、一人で教室に戻った。
そしたら、教室に入る前に、ガンって大きな音がして。
驚いて思わずカバンを落としちゃって、中にいた神原くんと目があった。
「あ……」
「どーしたの、木村。忘れ物?」
言葉に詰まった私に、神原くんは何事もなかったように笑いかけてきた。
自分が蹴り飛ばした机を直しながら。
「あ、三者面談、俺のあとだったもんね。どうだった?」
一人でいたときの険しい顔とは180度違う表情だった。
その変わり身が見事で、素直に感心してしまった。まあ最初から見てたから意味ないんだけど。
「もっと社交性を身につけたほうがいいって言われちゃった」
私がそう笑うと、神原くんは少し目を丸くした。
「え、木村ってけっこうみんなと仲良いでしょ」
「そんなことないよ。むしろ、神原くんが私の存在を知ってたことにびっくりしてるくらいだよ今」
「それは俺をバカにしすぎ」
軽口を交わしたら、神原くんはちょっと安堵したみたいだった。
いつもの調子で優しく笑う。
「知ってるよ、いつも日直の仕事で困ってる子とかいると声かけてあげてるじゃん」
柔らかい声に戸惑って、心の中で(タカちゃん……!)と叫んだ。助けて、このままでは少女マンガのモブ女生徒Aにされてしまう。
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