バラオの棘

7/17
前へ
/17ページ
次へ
 間が持たなくなった私は、手に持っていたビニールをとっさに掲げた。 「さっきアイス買ってきたんだ、ピノ。神原くんも食べる?」  そうやって無理やり話題を変えると、神原くんはパチパチと二回瞬いた。それからまた笑顔を作る。 「ありがとう、もらう」  前後の席に座って、神原くんがこっちを向く。 「いただきます」  行儀よく言ってから、アイスを一つつまんで口の中に放り込む。  口の中いっぱいに冷たい甘さが広がって、しゃべれなくなる。それは嫌な沈黙ではなくて、アイスを頬張った顔を見合わせて、お互いちょっと笑った。  さすがに神原くんのほうが先に食べ終わる。 「木村さ、さっき俺が机蹴るの見てたよね」 「……ッケホ」  意外な言葉に思わず咳き込んでしまうと、神原くんは少し意地悪そうな顔になっていた。  おお、さすがバラオ。そういうところも少女マンガっぽい、などと思う。 「見なかったことにしたほうがいいかと」 「うん、俺もそうしてくれてるんだろうなって思ったんだけど、すごい普通だからなんか気になっちゃって」  神原君が眉を寄せて首を傾げると、サラサラの髪も一緒に揺れる。  その目にはーーなんだろう、期待のようなものがあった。  先を伺うように見つめると、一拍ののち口を開く。
/17ページ

最初のコメントを投稿しよう!

47人が本棚に入れています
本棚に追加