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「でも、電話はかかってこなくて。あの時のこと、まだ覚えてるんだよね?」
「そうだと思うけど」
ちょっと気まずくなった。
「ここでじゃなかったけど、私、立花くんに告白したよね。……レポートや原稿、資料を纏めてしまって、新学期に発表会は残っていたけれど、もう、夏休み中に会うことはない、という日だった」
「うん……」
そう、僕は大友さんに告白されていた。
僕の方は、部活が忙しいから付き合ったりは出来ない、と返した。実際、部活をして――後は本を読んで、ゲームをしたら一日が終わっていた。
「三年になって部活動を引退して、ひょっとしたら、とか思ってたんだけど。受験もあるし、やっぱりそれどころじゃなかったよね?」
訊いてきたというより、大友さんは自身のうちで確認作業をしているようだった。
班行動を通して、女子の友達が出来た、とは思っていたから嫌いなわけじゃなかった。告白されてから、気にもなった。でも、付き合いたいという感じにはならなかった。わいてくるものはあっても、それはそれ、だ。部活引退後は、本を読んでゲームして、色々……受験勉強までしていたから、なんの時間も残らなかった。
……というか、僕のような断り方だと、振ったうちには入らないのだろうか。
「立花くん。高校同じだよね。また、よろしくね」
と、大友さんが笑いかける。
「うん。よろしく」
そうなんだ。僕は大友さんと同じ高校に進学する。
……誰から聞いたんだったかな。
と、友人の顔をいくつか思い浮かべてみた。
「……ん? どうかした?」
気づかないうちに、大友さんに見詰められていた。
「ううん。別に」
言って、大友さんはまた笑んだ。
「高校生になって、女子……女の子の間で、好きな人はいる? って話になったらね。私は、いるんだ、って答えるよ。誰なの? って訊かれたら、立花くん、って言うから」
「それは……」
どうなんだろう。
「今日は、それが言いたかったの。それだけだから。本当、来てくれてありがとう」
大友さんは、胸の前で小さく手を振って僕に背を向けた。多分、ちょっと急ぐよう、歩き去った。
大友さんを見送った僕は、墓地の方に目を向け、やんわりそらした。
「ひと気はない、か。大友さんは、誰にも見られていないと思っていたようだけど」
僕は桜の木を見上げる。
まだ散らないよ、まだ散らない。これから満開になるんだから。
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