第1章

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「でも、電話はかかってこなくて。あの時のこと、まだ覚えてるんだよね?」 「そうだと思うけど」  ちょっと気まずくなった。 「ここでじゃなかったけど、私、立花くんに告白したよね。……レポートや原稿、資料を纏めてしまって、新学期に発表会は残っていたけれど、もう、夏休み中に会うことはない、という日だった」 「うん……」  そう、僕は大友さんに告白されていた。  僕の方は、部活が忙しいから付き合ったりは出来ない、と返した。実際、部活をして――後は本を読んで、ゲームをしたら一日が終わっていた。 「三年になって部活動を引退して、ひょっとしたら、とか思ってたんだけど。受験もあるし、やっぱりそれどころじゃなかったよね?」  訊いてきたというより、大友さんは自身のうちで確認作業をしているようだった。  班行動を通して、女子の友達が出来た、とは思っていたから嫌いなわけじゃなかった。告白されてから、気にもなった。でも、付き合いたいという感じにはならなかった。わいてくるものはあっても、それはそれ、だ。部活引退後は、本を読んでゲームして、色々……受験勉強までしていたから、なんの時間も残らなかった。  ……というか、僕のような断り方だと、振ったうちには入らないのだろうか。 「立花くん。高校同じだよね。また、よろしくね」  と、大友さんが笑いかける。 「うん。よろしく」  そうなんだ。僕は大友さんと同じ高校に進学する。  ……誰から聞いたんだったかな。  と、友人の顔をいくつか思い浮かべてみた。 「……ん? どうかした?」  気づかないうちに、大友さんに見詰められていた。 「ううん。別に」  言って、大友さんはまた笑んだ。 「高校生になって、女子……女の子の間で、好きな人はいる? って話になったらね。私は、いるんだ、って答えるよ。誰なの? って訊かれたら、立花くん、って言うから」 「それは……」  どうなんだろう。 「今日は、それが言いたかったの。それだけだから。本当、来てくれてありがとう」  大友さんは、胸の前で小さく手を振って僕に背を向けた。多分、ちょっと急ぐよう、歩き去った。  大友さんを見送った僕は、墓地の方に目を向け、やんわりそらした。 「ひと気はない、か。大友さんは、誰にも見られていないと思っていたようだけど」  僕は桜の木を見上げる。  まだ散らないよ、まだ散らない。これから満開になるんだから。
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