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思えば、こんな風に、人生の節目ではいつも、母と街を歩いたように思う。
例えば。
記憶にある中で一番古いのは、中学校に入る前。
制服を着るために、初めて「採寸」というものをしたのがその時だったと思う。
高校に入る前には、新しい制服に変わるのは勿論だが、電車通学になるにあたって、定期券を買ったり、それを入れる定期入れを選びに行ったりした。
大学生になる時には、友達やまがりなりにいた恋人(大学入学後すぐに別れることになる)なんかと連れ立ってそれなりに自分で色々なものを用意したように思うが、塾講師のアルバイトをするためにスーツを初めて買いにいったときには、やはり母と街を歩いた。
社会人になる際には、初めての一人暮らしにあたって、色々な街で色々な部屋を一緒に内見に行った。家具も揃えるために地元から新宿まで色々な家具屋を巡ったし、銀行口座をつくったり、実印を登録したり、と。
うん、今思えばあの時が一番沢山の街を歩いた。
節目節目の、主に「春休み」と呼ばれる時期に、僕は毎度こうして母親と一緒にいろんな街に色々な準備をしに回っていたのだ。
そして今回も、たまたまだが桜の季節で、人生の大きな節目。
だから、母親と街を歩いている、それだけのことだ、と思えた。
空は晴れていて、春一番の突風が吹いている。
このままどこかに飛ばされてしまいそうだ、ともはや冗談にもならない冗談を思いつく。
社会人4年目の年度末。
僕は母と共に、自分の葬儀場を下見するために街を歩いていた。
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