15人が本棚に入れています
本棚に追加
「いえ、うちの子は今家におります。詐欺ですか?」
母がそう口にした。
どうやら、電話の相手は父ではないようだ。
「お金はいらない? はあ……。病院ですか? いえ、信じたくないとかではなくて……」
呆れた顔をしたり受話器を持っていない方の手でこめかみをおさえたり、母は混乱していた。
随分手の込んだ詐欺のようだ。
「どうしたの? 僕が出ようか?」
僕の声を聴かせれば流石に詐欺師も逃げていくだろう。
そう話しかけると、母もアイコンタクトで応じ、
「じゃあ、今隣にいる息子とかわりますね。本当にいるので。」
と言って僕に受話器を手渡そうとした。
が、その時。
受話器は僕の手をすり抜けてカーベットの床の方へと落ちて行った。
受話器についたぐるぐる巻きのコードが重力と戦いながら伸び縮みする少しコミカルな情景の中、僕と母の時だけが完全に停止してしまった。
今、何が起こった?
最初のコメントを投稿しよう!