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「うん?」  ふと漏れてしまった言葉に俺はハッとして口を押さえるがもう遅い。何事かと首を傾げている。誤魔化そうかと思ったけれど、犬飼の大人らしい余裕の雰囲気に息を吐いた。 「いや、……犬飼さんくらいカッコ良かったら人生もっと楽しかっただろうなって」  同年代には決して言えない本音を漏らす。誰かを羨むなんてカッコ悪い。 「俺に? それはどうだろうな」  彼は苦笑するけれど、俺は女の子と別れるたびに胸の中に錘が増えていくのを感じていた。こんな見た目じゃなかったら、もっと男らしかったら、きっとあんな風に勝手に想像した中身に幻滅して振られたりはしなかったはずだ。無理してるなんて言われなかったはずだ。 「長崎くんはどうしてそう思うんだい?」 「うーん、……犬飼さんみたいな人ならそこにいるだけで男らしいけど、俺みたいなのだと男らしいことしても無理してるって言われるっつーか」 「ううん。男らしいって、例えば?」 「デートでエスコートするとか、連絡をマメに返すとかかな……結構尽くしたつもりでも、結局「想像と違った」って言われちゃったりして」  言っている途中でまた我に返る。どうやら美恵との一件が、思った以上に堪えているのかもしれない。 (くそ……この人の前と口が滑るんだよなあ)  不思議と人の警戒心を解かせるような雰囲気を出している犬飼だからなんだろうか。この前からついつい喋りすぎてしまう。彼の前では他の連中以上に男らしくしていたいのに、弱音しか吐いていない気がする。  誤魔化すように笑う俺に、犬飼は笑いもしないでその切れ長の目を俺に向けた。 「長崎くんは男らしいってことのハードルが高いのかもしれないね。君はそのままでも十分立派な男だと思うけどな」 「なっ……」  またしても言われ慣れない言葉にカアッと頬が熱くなるのを感じた。  そのまま頭が真っ白になっていると、タイミング良く定食が来て話はそこで中断された。 「……そういえば、長崎くんは下の名前なんていうんだい?」
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