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「カナタです。長崎カナタ」  照れを振り払うように黙々と食べていたところに質問され、顔を上げる。そういえば名前を言ったことはなかった。制服にネームプレートは付いているけれど、分かるのは苗字だけだ。 「カナタかあ。似合ってるね」 「そう、すか?」  にこにこと笑う犬飼に対して、自分ではピンとこない。  むしろ字面だけだと、女とも間違われそうな中性的な響きが少し嫌いだ。 「実はずっと気になってたんすけど、犬飼さんっていくつなんですか?」 「今年で三十二だよ」 「あー……」 「思ったよりオジサン?」 「いや、ちょうどいいっすよね」 「何それ。カナタくんはいくつ?」 「二十一ですね」 「ふふ。二十一かあ……ピチピチだね」 「あは、それオジサンっぽいっす」  食べながらふと盗み見ると、おやと思った。  犬飼は大柄な体に似合わず綺麗な食べ方をする。運動部らしくガツガツといくのかと想像していたけれど、箸の運びだろうか、食べる速度だろうか、何がとは言えないけれど全体的に育ちがよさそうな雰囲気だ。 (髭とロン毛でもっとワイルドなイメージだったけど、意外といいとこのお坊ちゃんとかなのかな)  思いがけない昼食はあっという間に終わり、「俺が誘ったからね」とスマートに奢る大人の姿を目に焼き付けて、その日は解散した。
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