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「もう! マジで信じらんない! サイテー!」
部屋の中に何かを投げつけながら、モデルみたいな痩身で派手な女がハンドバッグを振り回して逃げるようにこっちに向かってくる。部屋の方を気にしていて、明らかに俺には気づいていない。
「え、えっ、っと!」
「きゃああっ」
ほとんどタックルだ。細い女の子だけれど、威嚇するような勢いごと全身で倒れこんでくると、限界が近い俺の腕で支えられるはずがなかった。
やばい、と思う間もなく手元が衝撃を受け止めきれずにダンボールが滑り落ちる。ガチャンと嫌な音がして、その箱に乗り上げるように女の子が倒れる。
「わ、わあああああっ! すいません! 大丈夫ですか!」
パンツ丸出しでダンボールに覆いかぶさった彼女の姿にサーっと血の気が引いていく。
急いで助け起こすと、物凄い気の強そうな目をした彼女が、鬼のような形相で俺を睨みつけて「なんなのよマジで!」と足元にあったダンボールを改めて蹴っ飛ばしてから、バッファローみたいな勢いで階段を駆け下りていった。
「あ……うわあ……」
蹴った時にトドメを刺されたように、足元に転がる精密機械入りのダンボールは微妙に歪んで、靴跡もついている。あまりにも悲惨な目の前の有様に、思わず呆然とした。
「あー……」
背後から今一番聞きたくない低音の声が聞こえて、指先が冷たくなる。
恐る恐る振り返ると、ハーフアップにした長身の男が、今日は左頬を腫らしながら何かを考えるように無残なダンボールを見つめていた。その視線が俺を捉える。緊張がピークに達して、今この瞬間に隕石でも落ちてきてくれないかと祈るが、そう都合よくはいかない。
今までの柔らかな雰囲気とは明らかに違う、ピリピリとした空気に俺は息を飲んだ。
「タイミング悪いね」
「す、すいません!」
「うん。とりあえず運ぼうか」
「はっ、はい!」
犬飼が動く前に素早くダンボールを持ち上げると、また中で位置が変わったのか何かがガチャガチャぶつかり合う音がした。その音に俺はもう半泣きだ。生きた心地がしない。
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