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「――それで」 「はい」  数分後。俺は初めて入るリビングで、無残なダンボールを犬飼と囲んで正座していた。 (部屋……やべえ)  闘牛でも放ったような、もしくは山賊の襲撃にでもあったような有様。  グラスでも投げつけたのか部屋の角には粉々のガラスが落ち、本や服が飛び散りカーテンが片方カーテンレールから外れている。かろうじて姿を保っているのは二人掛けのソファーとコーヒーテーブルだけで、それらを犬飼がずらして無理やりダンボールの置き場を作った。  元々の部屋の様子は知らないけれど、物のない片付いたキッチンからは想像ができないほど荒れていた。 (いや、それどころじゃねえけど)  ダンボールを見つめて、しかし開ける様子もなく、荒れた部屋から灰皿を発掘してタバコに火をつけながら何事か考えている様子の犬飼。対する俺は悪さをして処分を待っている生徒のような心境だ。まさしくそんな状況だけれど。 「ふう。俺はよく知らないんだけど、こういう時はどうしたらいいのかな。送り返したり、会社に連絡したりするのかな」  長く紫煙を吐くと、ゆっくりと訊ねられる。  その時間が俺にはとてつもなく長く感じて、自分の膝の上で握った拳しか見られない。  あの時女の子が突っ込んで来なければ、とは思うけれど、持っていられなかったのは間違いなく俺の責任だ。何が入っているのかは分からないが覚悟を決めるしかないだろう。 「俺が、弁償します」 「そういう決まり?」 「はい」 「補償とかなかったかな?」 「会社が決めてますけど、その金自体はドライバーが持ちます」 「ふうん」  まだ半分も吸っていないタバコを灰皿に押しつけるとテーブルに置いて立ち上がる。  俺はいくら請求されるだろうかと、預金残高を思い出しながら目で追った。彼は玄関の方に姿を消すと、少し遠いところから声がした。 「君には他にどんなペナルティが待ってるんだい?」 「え、っと……厳重注意と、始末書とか……だと思います」
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