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この人が俺と同じように昼夜問わず動画を見てオナニーしたり、女の子とセックスしたり、そんなことするなんて想像したこともなかった。
(当たり前だけど。……って違う。じゃあ今、体を求められたら俺はどう答えるんだ?)
じんわりと暑さを感じる季節らしい半袖のTシャツから覗く鍛え抜かれた太い二の腕と、日本人らしくない隆々とした胸筋と、その上についた完成された大人の男の顔と。
自分の生っ白い腕でその太い首にぶら下がり、ヒゲに囲まれた肉厚な口唇に触れる――そこまで想像したところで、目の前の口唇が歪む。
「あー……なんか、違うことを想像してないかい?」
「ひぇ! べ、別に!」
「まあ、気のせいならいいんだけどね」
よほどジロジロ見ていたのか、犬飼は少し気恥ずかしそうに口元を隠した。
「それで、あー。困ってるのは、俺はその、少し恥ずかしい癖というのかな、習慣……があるんだけど、仕事中はそれがないと困るんだ」
「癖……ですか」
「さっきその対応をしてもらってた子に出て行かれてしまったから、今回だけでもカナタくんに代わってもらえたらありがたいんだけどね」
あのバッファロー女は、犬飼にとってなかなか重要な役目を担っていたらしい。
(やっぱエロいことか……?)
お水なお姉さんといわれれば納得な見た目だった。しかしそんなお店レベルのことお店未体験の俺に務まるのかは疑問だ。
「お、俺……結構ノーマルな素人だと思うんすけど……」
「え? ああ、そう思うよね。違うよ。その……夜、隣で寝てほしいんだ」
「寝る」
「セックスじゃないよ。本当に、隣が寝室なんだよ」
呼吸も忘れて固まってしまった俺に、犬飼は急いで立ち上がって後ろにあった引き戸を開いた。
闘牛もここまでは入らなかったのか荒れてはいない。部屋いっぱいにダブルサイズのベッドがどんと置いてあるだけだ。
「……いい、お部屋すね」
ぎこちなくそれだけ絞り出すと、犬飼は首を振った。
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