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「カナタくん、思ってること顔に出やすいよね。違うよ。前の家から持ってきたら寸法を見誤ってね、結局ベッドを入れたら他に何も入らなくなっちゃったんだ」
「ああ……」
「引越しも買い直すのも面倒で後回しにしてたら、これに慣れてしまってね」
「いや、……素敵な、お部屋です」
結局同じような感想を口にしてしまう。
前の家からこのサイズの大きさのベッドを持ってくるなんて、やはりボンボンなのか、それとも物を大事にするタイプなのか、判断しかねるところだ。
「俺はじゃあ、そこで夜寝てればいいんすか?」
犬飼は頷いて、寝室の戸を閉めた。
「一日だけ?」
「そうだな……一ヶ月くらいかな。今の仕事が終わるまででいいよ。あとはまたなんとかするから」
「仕事? そういや犬飼さんの仕事って……」
荷物の送り主の名前からなんとなく想像はつくけれど、直接聞いたことはなかった。普通に答えてくれるだろうと思っていた質問に、犬飼はなぜか気まずそうに視線を逸らす。
「ううん。それは後々話すよ。でも俺が仕事をまともにやるには君が必要なんだ。でもほとんど知らない男の家で一カ月寝てくれって頼み、普通なら気持ち悪いしね。通常通り弁償してくれてもいいし、カナタくんに任せるよ」
そう言って犬飼は俺を玄関まで見送った。
「仕事中に時間を取らせて悪かったね。頼みを聞いてくれるなら夜うちにおいで。弁償するなら請求書を次来る時までに作っておくよ」
「……そんなの、俺に決めさせていいんすか」
だって犬飼の大事な荷物を落としたのは俺だ。なのにどうして選ばせてくれるんだろう。
俺の言葉に、犬飼はいつの間にか持つだけになっていた保冷剤を置いて、困ったように笑った。
「俺は今とても困ってるからね。藁にもすがりたい気分なんだよ」
つまり俺は藁なのか。
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