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(俺は……)
いくらか分からない弁償か、一ヶ月の夜だけ同居生活か。
弁償は仕方がないと思う。俺自身のミスだ。これからもこういうことが無いとは言えないし、責任を負うのは当然だ。一ヶ月の夜の寝床が変わるのも、元々どこでだって寝られるタイプだし、今は彼女もいないから問題はない。
(相手が他の野郎なら殴って逃げるけど)
他ならぬ犬飼の頼み。元々は自分のせいとはいえ、理想の男からのお願いとは、なかなか甘い響きだ。
困っていて、助けて欲しがっている。それを偶然とはいえ俺にしているという状況が、自尊心をくすぐった。
(それに……)
まだ赤く腫れた頬が痛々しく、困ったように笑う。その姿を見ていると、喉が何かに詰まったような感覚になったのも事実だ。
「――あの!」
俺は閉じかけたドアを途中で開ける。
驚いたように目を見開く彼の表情に、俺の胸が何週間かぶりに満たされるのを感じた。
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