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「お前ってバカなの?」
「いやーさあ。だって困ってるって言われたらさ」
「それで弁償も添い寝も両方って、おかしいんじゃね。良いじゃん添い寝したら弁償しなくていいっつってんだから」
「それは……なんか、あれだよ……大人の責任ってやつだよ……」
「まじでバカだよ」
「いや……添い寝っつーなよ」
「今更……」
数時間後。仕事終わりに西沢と馴染みの居酒屋で夕食をとっていた。
彼は以前吐いてるところを見られて以来、俺の酒の弱さを知っているから、自分が飲んでも酒を無理に勧めてくることがない。俺はウーロン茶の氷をストローでかき混ぜる。
「つってもさ……」
正直少しだけ後悔していた。
ついついその場では弁償も添い寝も了承してしまったけれど、もう少し時間を置いて冷静に考えてからでもよかったんじゃないか。
犬飼がその場で返事を求めなかったのは、多分俺に考えるための時間をくれたんだろうに、後先考えずに数分で返事をしてしまった。西沢に言われるまでもなく、我に返ると間違いなくバカな選択をしたんだろう。
(いや、今更寝るのが嫌とか弁償が嫌とかいうつもりはねえけどさ)
しかし夜限定、一ヶ月限定ではあるけれど、憧れた男の私生活というものを見てみたい気持ちもほんのりあるわけで。さぞかしスマートでカッコいい生活を送っているんだろうと興味津々なわけで。つまり、気分は野鳥観察に近い。
「まあ会社内でのお前の評価は確実に下がるわけだから、会社に報告なしってのはせめてもの救いだよなー」
「まあ、そうだけどさ」
俺の申し出に犬飼は驚きながらも「じゃあせめて会社に連絡はしないよ。それなら少しはお互い様ってことに……ならないだろうけど」と困ったように笑ったのだ。
「にしても何が楽しくて男と添い寝ねえ……エロいお姉さんとかならご褒美だけどな」
「それな」
「その人、美人とか?」
西沢が急に真剣なトーンで聞いてくるものだから、顔を上げる。同僚がなぜほとんど知らない男と謎の約束を交わしたのか不思議で仕方ない。そんな表情で。
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