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「しかたねえよな~。カナタはかわいいもんな。そこらへんの女じゃまずつり合わねえよ」  井上は親父くさくゲップを垂れ流しながら、中年らしい丸々とした腹を掻いて笑った。  その言葉に、俺の腹の底はじわりと熱くなる。 「あー長崎はカワイイっすよねー。男のファンとかもいんすよ」  井上に同意するように、彼の両サイドを埋める太鼓持ちたちが面白がってネタを提供し始める。 「なんだよ。カナタにファンいるの」 「前に一回インフルになった長崎のルート俺が変わったら、じめっとしたオッサンが「今日、長崎君じゃないの」ってすげー睨まれて!」 「まじかよ!」  井上は手を叩いてゲラゲラ笑う。  急激に、今座っている場所がどんどん狭くなっていくような居心地の悪さを感じて、俺は握ったままにしていたジョッキを一気に空けた。  苦いし臭い。強いアルコールが脳の動きを止めるようにぐわんと揺れる。 「そういやこの前嫁さんがさ、アイドルのコンサートDVD見てたんだけど、そいつらよりカナタのが断然かわいかったからな。なんつったっけか、女子高生がうじゃうじゃいるグループ」 「井上さんの奥さん、アイドル好きなんすね」  自然と話を逸らそうとぎこちなく笑顔を浮かべるが、井上は首を振って持っていたジョッキを振り回した。 「いや、そんなのよりお前はかわいい! もっと自信持て!」 「いや、俺男なんで。そういう自信はいらないっすね」  笑って受け流すと、逃げるように席を立ってトイレに駆け込んだ。  ふらつきながら手洗い場に手をつくと鏡に映るのは華奢で頼りない顔をした男が一人。  子供がそのまま大きくなったような幼い顔に小さいパーツ。その中で目だけが大きくついて、酒のせいで充血し潤んでいる。一六五センチにも満たない低めの身長と相まって黙っていると女の子のようだとよく評される。それが俺は嫌でたまらない。 (また伸びてきたなあ)  目にかかるくらいに伸びてきた焦げ茶の髪を乱暴にガシガシと乱す。 (髪じゃなくてヒゲ生えろっての)
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