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「へえ。どんなの書いてるんですか?」
俺は元々本をあまり読まないから、有名な作家だって名前を言われても分からない。
見透かされたのか、犬飼は笑った。
「多分カナタくんは興味ないジャンルだと思うよ」
「そ、そんなことないっすよ。犬飼さんが書くなら……んー、ホラーとか? あ、推理もの? あとは……なんだろ」
ジャンルといわれてもよく分からないが、考えつく限りのことを言ってみる。犬飼は首を振ってガリを口に放り込んだ。
「恋愛もの」
「え、まじすか。あー……」
意外といえば意外だ。そして確かに俺の興味がないジャンルといえるだろう。
「恋愛小説って男も書くんだ」
それが素直な感想だった。
「まあ、そう思うよね。……普段はそうでもないけど、わざわざ言うのは少し恥ずかしくてね。カナタくんみたいな普通の男の子なら尚更ね。さっきはつい濁してしまったよ」
「いや、大丈夫っすよ。なんかすいません。……でも、ちょっと読んでみたいかも」
「ふふ、そういうおべっかはいらないって」
耐えられないというように顔を覆う犬飼に俺は笑ってしまった。
けれど、それは本心だった。この人の恋愛観や、生み出す話を知りたいと思った。
(ホラーや推理でも読みたいけど)
だからつまり、俺は犬飼という人間の頭の中を見たいんだと思う。この人がどんな目で世界を見ているのか、その欠片でも知りたいのだ。
「いや本当に、マジで読みたいっすよ」
「ううん。……そこら辺に適当にあるから、まあ暇な時にでも見てみればいいんじゃないかな。……カナタくんは随分世渡り上手なんだね」
思いがけない言葉に、今度は俺が動揺する番だった。
「え、まじっすか。俺わりとそういうの不得意だと思いますよ。長男だし」
「長男関係あるのかい」
「長男は真面目で世渡り下手ってなんかで読んで」
「カナタくんは長男なんだねえ」
「下に弟と妹が……」
「ああ、だから世話好きな感じするのかあ」
「世話好き……?」
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