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本当にこの人は、今まで俺が言われたことがない言葉を連発してくる。
「人が困ってると見過ごせないところとか、そうなのかなって思ってたんだけどね」
「それは……人として当然だと思いますけど」
犬飼の前でしたことを思い出そうとするけれど、困ってる人を助けたなんてそう思い浮かぶものじゃない。首を捻るが、犬飼は一人納得したように寿司を摘んでいた。
あらかた食べ終わった後、犬飼は鍵を差し出した。
「今日は一応、歓迎会的なつもりだったんだ。明日からはご飯は好きにしていいよ。キッチンとか冷蔵庫も使ってもいいし、来る前に食べてきてもいいし……これ鍵。大抵俺は家にいると思うけど」
まさか合鍵なんか渡されると思っていなかったから、彼の手元を凝視してしまう。
(いやいや、シェアと一緒だって)
急に同居が現実味を帯びてきて、ドキドキしはじめている俺をよそに、犬飼は説明を続ける。
「お風呂も好きに使っていいし……シェアしてたならその感じでいいよ。俺は仕事はリビングでしてるし、好きな時に寝て、好きな時に帰って構わないからね」
「あ、はい」
「うーん……とりあえずお風呂?」
「あ、入ってきましたから」
「へえ……?」
俺の答えに犬飼は驚いたようだった。
寝るだけと聞いていたし、本当なら夕飯も出るとは思っていなかったけれど、犬飼の反応にこっちが動揺してしまう。
「え? 寝るだけって聞いてたから……その……」
体を清めて腹ごしらえして、寝るためだけに来るなんて、なんだか改めて考えれば考えるほど謎の羞恥心が湧き出してくる。
(まるでエッチだけの関係の男女みたいな……)
いや、いたことがないから分からないが。
混乱してしどろもどろになっていると犬飼が吹き出した。
「いや、ごめんごめん。気を遣わせたね、ありがとう。明日からは好きに使っていいし、あんまり気にしなくていいよ」
「は、はあ」
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