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犬飼がパソコンに向かっている時は集中しているのだろうと思い、声をかけないし物音もなるべく立てないようにしているが、その結果会話がほとんどない。
俺が行ったタイミングで犬飼が風呂から上がった時に、ようやく少し会話するくらい。
「なんか俺、いい寝床にふらっと寄ってる野良猫の気分なんだよ」
「不満なのか? その犬飼サンってのに聞けばいいじゃねーか」
「俺本当に寝てるだけですけどいいんですかって? それ俺が聞いたらおかしくねえ?」
「長崎はどうしてえの。仲良く布団に入りてえのか、飯食いてえのか、野良猫でもいいのかお伺いしてえのかなんだよ」
「いや、そういうと……俺が一緒に寝て欲しいみたいになるじゃん」
西沢の言葉は正しい。しかし自分でも結局どうしてほしいのか分からないから聞けないのだ。
「お前さあ、結局のところ弁償とか荷物の破損とかそういう後ろめたさで大人しく言うこと聞こうと思ってんじゃねーの。別に弁償するって言ってんだしお前とそいつはイーブンの関係だろ。言いたいことあったら言っちまえよ」
思いがけない言葉に俺は顔を上げた。
「……後ろめたい、か」
そうなのかもしれない。
どこかまだ悪いことをした負い目があって、機嫌を損ねないようにと思う部分がある気がする。
犬飼自身は、どう思っているんだろう。ダンボールを落とした時のようなピリピリした空気は、それ以降姿を潜ませていて、仕事中でさえいつも通りの余裕ある空気を漂わせているけれど。
「長崎は気ぃ使いすぎなんだよ」
「ん。……そだな」
どんぶりに残ったスープを一気に飲み干して、俺は走って自宅に帰った。
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