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何気ない一言なのに、俺は急激に恥ずかしくなった。
「なっ、まあ、いや、……憧れますよ……そりゃ」
それだけの体、俺はどう頑張っても手に入らない。元々の生まれ持った骨格から違う。恥ずかしいけれど、羨ましがるくらいは許してほしい。
犬飼は首を傾げてからそんなもんかなと呟いた。
「それなら、触る?」
「え?」
突然の提案に、俺はきょとんとしてしまう。しかし冗談ではなかったようで、食べながら片手でTシャツをたくしあげて、見事に割れた腹筋を見せた。
「え、いいんすか?」
「うん。好きなだけどーぞ」
興味がないといえば嘘になるし、目の前でどうぞと出されて断るのも失礼だろう。なんて自分に言い訳をしながらゆっくり近づいていって膝をつき、ドキドキしながらそっと手を伸ばす。
「……おお。硬え」
中に何かを仕込んでいるようなハリと硬さ。人の体温なのに、同じ人間とは思えない触り心地に思わず感嘆の声が漏れた。
六つに割れた筋肉のでこぼこをなぞって側面から骨盤に向かう筋肉の筋を撫でる。
「すごい、いいな」
夢中になって触っていると、その腹筋にググッと力がこもった。
「ん、ふふ。くすぐったいね」
「あっすいません」
ついつい触り過ぎてしまったようだ。
犬飼の照れたような笑顔に、恥ずかしくなってそそっと離れる。
「でも凄いっすね。本当、憧れるな」
「カナタくんってそんなに筋肉つかない体なのかい?」
「うーん。ジムとか行ってるんですけどね」
ぺらっと自分のTシャツをめくると、見慣れた腹が見えた。
凹凸感の薄い白い体。さっきまで正反対の体を触っていただけに、その差は自分で見てがっかりする。
「そんなにないかな? 力入れてごらん」
ぴた、と犬飼の熱い指先が触れた。その指は、俺のよりずっと大きくて長い。
(そ、そりゃそうだよな。俺も触ってたんだしな)
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