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 内心驚きながら、でもすぐに納得して腹に力を込める。見た目にもほんの微かに筋肉が見えたかなという程度の変化だ。我ながら残念すぎる。 「ううん。ああ、でも骨がもともと細いのかな。ウエストも細いみたいだし」  急に大きな手で太さを確認するように、両手でぐっと脇腹を掴まれた。 「ふあっ」  その途端、背筋にゾクゾクとしたものが走り、気づいた時には声を上げていた。  見開いた目をこちらに向ける犬飼と、同じく声を出したことに驚いた俺の目があう。そして、彼の手がゆっくりと離された。 「……ごめん」 「いえ、俺も、すいません」  各々気まずさを誤魔化すように犬飼は食事を再開し、俺は買ってきた残りの食材を冷蔵庫に仕舞う。そんな時にふとあることを思いついた。 「あの俺、いる間だけ晩飯作りますよ。俺もどうせ一人で食ってくるし、作るなら一人も二人も変わらねえっつーか」 「いいのかい?」 「あ、仕事の邪魔しないように置いとくだけにしとくんで、食わなかったら俺が朝食って行けばいいし。そんな得意ってほどでもないから迷惑じゃなければ、ですけど」 「迷惑なんてとんでもないよ」  さすがにそう何度も倒れているところに遭遇したくはない。それに晩飯を作るという役割ができれば、今の自分の野良猫感からも脱出出来る気がしたのだ。  犬飼は満面の笑みで助かるよとリビングから自分の財布を持ってきた。 「ここから使って。今日の分も抜いていいからね」  丸ごと渡されそうになって後ずさる。そんな貴重品は預かりたくない。 「ちょっ……財布は無防備すぎっすよ」 「そう? じゃあこれくらい渡しておけば大丈夫かい?」  首を傾げながら、何ヶ月分の予定なんだと思える札束を渡された。その半分を急いで返して、犬飼を見上げる。 「……もしかして犬飼さんって、ボンボン?」 「ボンボン……古い言葉知ってるね。違うよ。どんぶり勘定なだけだよ」  笑って、また夕飯を続ける。  実家の場所も濁していたし、もしかしたら物凄く有名なところの息子なのかもしれない。それならこのワイルドな見た目にそぐわない今までの言動も納得だ。金持ちは大抵どこかのんびりしている――と俺は思っている。
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