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(まあ何はともあれ、役割が出来て良かった)  これで少しは胸をはって寝ていられる。 「ごちそうさま」 「今日は寝ますか?」 「ううん。さっきまで寝てたし、まだしばらくはやってるから、カナタくんは気にせず寝てていいよ」  あの倒れていたのは空腹と睡眠不足だったのか。後片付けをしながらため息をつく。 「寝る時はちゃんと布団で寝てくださいよ。俺さっき見たときマジで心臓止まるかと思った」 「ああ、ごめんね。驚かせちゃったかな」  その苦笑する声に、俺はふとある可能性に気づいて動きを止めた。 「……もしかして俺が寝てるからベッドに入りづらいとか……あります?」  それなら本末転倒なのだけれど。  もし俺が寝ているせいで布団に入らないのなら、俺が寝ている間に彼が寝ている様子がないのも納得だ。  ゆっくり振り返ると、犬飼は俺の気持ちを察したのか、二回瞬きをしてふわりと笑った。 「ないよ。最初に言ったけど、人がいることが大事だからね。カナタくんが寝て起きて仕事に行く日常が俺の近くにあることが安心するんだ。……っていうと、なんか変態っぽいね」 「いや……なんか、わかります」  一人暮らしを初めてすぐに美恵と付き合った。  彼女は付き合いだして早々から最近までほとんどうちに入り浸っていた。だから居なくなって完全に一人きりの空間になると、しばらくは何か持て余すような感覚になった。  彼女に未練があるとかではなくて、例えるならそれは。 「少し寒い、感じっつーか」 「ああ、そんな感じだね」  俺は男だから、そんな女々しいことを言うのは、認めるのは、嫌だけれど。だから決して他では言ったりしないだろうし認めないけれど。 (ひとりは寒いんだ。犬飼さんもそんな気持ちになるんだな)  俺よりずっと大人でもそんな気持ちを持つのか。それは少し意外で、親近感も湧いて、でもどこか残念。 「カナタくんのおかげで俺はなんとか仕事できてるんだよ」 「いないとどうなるんすか」  少し意地悪して聞いてみると、彼は少し考えて目を細めた。 「廃人になってる」  それは今まで見たことない、とても悪そうな笑顔で、ゾクゾクしたものが俺の背筋に走った。
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