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「――はい。ああ、君か」  恐らく一八十センチはあるだろう。長身と日本人離れしているがっしりとした西洋の彫刻みたいな体つきを惜しげもなく俺の前に披露する。肩につくほどの長い髪をハーフアップにして、整えられた顎髭がワイルド。その場にいるだけで男のフェロモンがダダ漏れの存在だ。  ドアを開けた直後に香ってくる独特の煙草のにおいに一瞬気を取られながら、荷物を差し出す。 「こんちは……あ、サインを」 「はいはい、これでいいかな。……」  受け取ると犬飼は一瞬何かに気づいたようにして、入室を促すようにドアを大きく開けた。 「そうだ、ちょうど良かった。集荷してほしいものがあってね、今宛名書くから少し待っててもらえないかな」 「あ、はい」  自分では一生出せないだろう心地のいい低音の声が響く。羨ましい。こうなりたい。 「伝票はどれにしますか?」 「あるから大丈夫だよ。今書いちゃうから、これでも飲んで待ってて」 「あ……ありがとうございます」  そう言いながら彼は玄関脇の冷蔵庫から未開封の小さいペットボトルのお茶を差し出すと、俺の返事を待たず少し急いだようにそのまま部屋の奥に姿を消してしまった。  さっきまで食欲も湧かなかった胃にお茶が染み渡るのを感じながら、なんとなく玄関に突っ立っていると初めて入った部屋の様子を無意識に見てしまう。  外観からでは分からなかったが中はそこそこ広さがありそうで、玄関入ってすぐにキッチンがあり、隣に洗面所に続くドアが開いている。奥に続く部屋がリビングのようだ。奥隣にも部屋があるので俺のワンルームの部屋より明らかに広い。  キッチンは片付いているが、どこか生活感が感じられない。そもそもキッチン用品が見えないし、使っていないのかもしれない。物のないさっぱりとした空間だ。俺はわりとマメに自炊をするほうなので、どんなにこまめに掃除してもこれほどスッキリはしないだろうと分かる。  もともと自分の部屋のような小汚いワンルームとは置けるスペースが違うのだろうが。 「……待たせちゃってごめんね」
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